実録 関西パンク反逆の軌跡 Vol.19
- 2023.05.03
- COLUMN FROM VISITOR
【2022年ベスト音源】
これらの音源は新型コロナ禍中に制作されている。先の見通しが立たない前代未聞の状況下で高い志を持って作品を発表してくれた音楽家達に敬意を表したい。
特に表記の無い音源はアナログ盤。
♪邦人音源
ゑでぃまぁこん「いつのまにかわたしたち/帰り道」
久保田健司「月を見上げて」CD
健司愛子千恵「音楽はまだわからない」CD
渚にて「ニューオーシャン」CD
ほたるたち「虹の向こう」CD

これら傑作の共通点は
このメンバーでしか奏でられない独自の音楽、
音楽の背景にしっかりした人間的信頼関係が感じられる、
演奏が歌唱に拮抗して歌うている、音の隙間を重視した録音とミックス、が挙げられる。
KAWASHIMA/MOCHIZUKI/HENLITZI「沈黙は石塊に宿る暴力」CD
2021年に52才の若さで亡くなったサックス奏者・橋本孝之に捧げられた作品。
M3「Kumo No Hikisaki」での川島誠のサックスは雲間から陽光が射す様で橋本が成仏してゆくのが感じられた。
マエソワヒロユキ「NAKED SOWAN 〜ソワンと呼ばれた男〜」CD
アコースティック・ギター弾き語りソロ・アルバム。
M 1イントロの乾いた音色の重厚なアコギ・ストロークが臨場感抜群で耳を奪われる。
自然描写を巧く織り込んだ歌詞をしっとり繊細に歌う歌唱とヘビー・メタリックとも言える攻めた高音圧アコギのバランスが絶妙。
マエソワヒロユキはライブのMCで奥目と自嘲して笑いを取る。
元祖奥目の岡八郎のギャグに「隙があったらかかってこんかい」があったが本作は隙の無い出来。
海外音源
Dr.ジョン「Things Happen That Way」
2019年に77才で亡くなったDr.ジョンの遺作。色気たっぷりの歌声と控え目ながらツボを押さえたピアノに合掌。アルバムを貫くゆったりしたリズムが心地良い。
ジ・アルビオン・クリスマス・バンド「All Are Safety Gathered In」CD
彼等は1971年にシャーリーコリンズ&アルビオン・カントリー・バンドとしてアルバム「No Roses」でデビュー。52年もの間に夥しい数のアルバムをリリースしているがどれを聴いても外れ無しなのが立派。
本作はアシュレー・ハッチングス77才が復帰、弾むベースが健在で嬉しい。サイモン・ニコルも参加していてフェアポート・コンベンションの創立メンバーが二人揃い4曲共作。
ドラムレス・アコースティック編成のパンチ・ブラザース「Hell On Church Street」は空気清浄機付ブルーグラスの体でクールな仕上がりだったのに対しこちらは同じ様な編成でも土臭く温かみがあり人懐っこいサウンドでクリスマス気分を盛り上げてくれる。
ヴァン・モリソン「What’s It Gonna Take?」
喜寿ながら益々血気盛んなヴァン翁のアメリカ批判も痛烈なノリノリのブルーアイド・ソウル。
エドガー・ウインター「Brother Johnny」CD
エドガー・W75才が2014年に70才で亡くなった兄ジョニーに捧げたアルバム。著名ミュージシャンが多数参加。ジョニーのカバー曲が中心だがエドガーのソウルフルな新作2曲がずば抜けて出来が良い。
女性歌手が参加していたら更に華やかさが増しただろう。
ボニー・レイット「Just Like That…」
ボニー72才が気心の知れたミュージシャン達と作り上げた作品。伸びやかな歌唱とストラトキャスターのナチュラルな音色を活かしたギター・プレイ、バンドのグルーブにシビレた。
ジョン・グリーヴス「Zones」
ジョン・G72才は今やフランス人よりフランス人らしい音楽家だと思う。
彼は過去にポール・ヴェルレーヌの詩に曲を付したアルバムを3枚リリースしている。本作はギョーム・アポリネールの詩が題材。詩人は1918年スペイン風邪で38才で亡くなってているからコロナ禍の今に相応しい企画。堀口大學の名訳で有名な「ミラボー橋」収録。
明治時代に京都で生まれた祖母は「こうと」という形容詞を使うていた。渋いとか粋な好みを意味している。フランス語ならchicやと思う。
子供の頃の私は高等と思うていた。
本作は正にこうとなアルバム。ジョン・Gと日系フランス女性ヒミコ・パガノッティのデュエットに蕩ける。
ポール・キャラック&ザ・sdrビッグバンド「Don’t Wait Too Long」
ポール・キャラック72才がドイツ南西放送ビッグバンドと組んだアルバム。1929〜2004年に作曲された12曲が違和感無く編曲されポール・Cが余裕綽々で歌いこなす。腹八分目感が心地良い。
なお「Don’t Let the Sun Catch You Crying」はジョン・グリーブスがカバーしていたジェリー&ザ・ペースメーカーズ「太陽は涙が嫌い」とは同名異曲。
テイラー・スウィフト「Midnights」
彼女の名前は知っていたがアルバムを聴いた事は無かった。ラナ・デル・レイ参加で購入。
くっきりした歌唱の勢いと伴奏の煽りが強烈。曲の出来が良く並びもスムーズでどんどんテンションがアップして行く。ほのかな色気漂うジャケットやブックの写真も含めて完璧なパッケージ。
プロデューサーのジャック・アントノフはテイラーだけでは無くラナ・デル・レイやセイント・ビンセントも手掛けている才人。

♪リイシュー音源
ザ・ビートルズ「Revolver」
ニューステレオ・ミックス。総ての音が生々しく夢に見たサウンドが聴ける。
「Taxman」はリズム・セクションがタイトでロック度アップ。
「Eleanor Rihby」は目の前で弦楽八重奏が演奏されているかの様。スタッカートが迫って来る。
「Yellow Submarine」のSEがぐっと前に出て潜水艦が進水する臨場感たっぷり。
ただし「TNK」はオリジナル・ミックスの大輪の花火が四方八方から打ち上がる様な祝祭感の方が好み。

♪クラッシック音源
ゴシック・ヴォイセズ「15世紀イタリアのフランドル学派」
ゴシック・ヴォイセズはイギリスの古楽ヴォーカル・カルテット。ゲストに2人の歌手を迎え曲によっては6声の高度なアンサンブルが聴ける。アンドルー・ローレンス=キングのハープも格調高い作品。
ソラッツォ・アンサンブル「ルーベン・シャンソニエ第二集」
2014年結成の声楽&古楽器アンサンブル4作目。邦人ソプラノ歌手・佐藤裕希恵が参加している事もあって注目していたが本作には不参加。歌手数は減ったが管楽器が加わり華やかさが増している。

♪以下のアルバムは収録時間が帯に短し襷に流しでソフトの選択に苦心が感じられた。
メイヴィス・ステイプルズ、レヴォン・ヘルム「Carry Me Home」
45回転なので12インチ・シングル2枚組。
レヴォン・ヘルムは2007年のアメリカ映画「ザ・シューター/極大射程」でベトナム戦争の伝説的狙撃兵を演じていた。鶴の如き痩身に鋭い眼光、無駄の無い身のこなし。西部開拓時代の農夫が現代に蘇った様な枯れた風貌が印象的だった。
本作は2011年6月3日レヴォン・ヘルム・スタジオズでのライブ録音。亡くなる前年、81才の演奏。映画の4年後だけに歌のみと思いきやドラマーに専念していて驚いた。
レヴォンが歌うのはラストの「ウェイト」だけ。ブラス・セクション入りの編曲が渋い。
アンサンクス「Sorrows Away」
LP2枚組3面のみの収録。
レイチェルとベッキーのアンサンク姉妹を中心にしたブリティッシュ・トラッド・バンド。彼女達は2017年にモリー・ドレイク(ニック・ドレイクとガブリエル・ドレイクの母親)のカバー・アルバムを発表。本歌の素朴さを損なわず現代に甦らせていて好感を持った。本作も21世紀ならではのトラッド音楽。
ジェスロ・タル「The Zealot Gene」
LP2枚組だが最長面で15分、最短面は11分。無理すれば1枚に収まるし12インチ2枚組にすればもっと音質が良かっただろう。
ジェスロ・タルの新譜がアナログで発売されるのは1995年「Roots to Branches」以来。時代は一巡りしたがバンド・リーダーのイアン・アンダーソンのトラッドに根差した音楽性は不変。
アンソニー・ムーア「CSOUND+SAZ」CD
CDに1曲30分収録。中近東の弦楽器サズのストロークで始まり10分程ドローンが続く。その後は約5分おきに音色や和音が変わりオルガンで終わる。周到に考え抜かれた構成は彼の1972年作「Reed Whistle&Sticks」(2022年再発)とも共通。
