第72回デューン 砂漠の救世主〔新訳版〕 上 (ハヤカワ文庫SF) 文庫  フランク・ハーバード(著) 酒井昭伸(翻訳)

デューン 砂漠の救世主〔新訳版〕 上 (ハヤカワ文庫SF) 文庫  フランク・ハーバード(著) 酒井昭伸(翻訳)
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一体世界はどうなるのでしょうね。

その答えはこのまま続いていくんだよ、なんですけどね。

でも、その中で君はどうやって生きるの、君のその行動は、思考は社会に歴史にどう影響を与えるのか、それとも何も与えずこのまま、僕も君も死んでいくだけなのか。一体、過去と現在と未来はどうやってつながっているのか、

その問いに応えようとしたSF小説があります。フランク・ハーバートの『デューン/砂の惑星』です。なんてことは前に紹介させてもらいましたが、『デューン/砂の惑星』の続編『デューン 砂漠の救世主』の新訳が出ました。読みやすい、嬉しいです。

『デューン』と並ぶアイザック・アシモフのSF大河小説の傑作『銀河帝国の興亡』(ファウンデーション)も新訳が出ております。全部ドラマ化されているからなんですよね。『デューン』の場合は映画化もですが。

前に紹介させてもらった最新大河SFの傑作『三体』もドラマ化されて、海外だとどれだけSFが重要であり、人気があることが窺えます。

このまま『デューン/砂丘の子供たち』『デューン/砂漠の神皇帝』『デューン/砂漠の異端者』『デューン/砂丘の大聖堂』と新訳で出てもらいたいです。

『デューン 砂漠の救世主』は統治の難しさを描いた作品です。前作で帝国の権力を奪いとり帝座についた後のお話。普通、王様は悪者を倒して、その世界はよい世界となりました。ジャン、ジャンということなんですけど、ぜんぜんそんな話じゃないのです。

僕らの現実そのままなのです。イスラエルがガザを完全制圧したとして、ウクライナが完全にロシアを排除したとして、その後世界はどうなるのか、という話なのです。

僕らでいうと、中国と台湾の問題にどう関わっていくかということです。いや、それとも中国が日本を侵略した時、どうするのって話です。たくさんの人が死ぬ戦争をしていいのか、どうなのかって、ことです。アメリカと戦争して、何百万人もの人がなくなって、今やアメリカの属国となって平和に暮らしている僕らですけど、こんなのだったらあの戦争なんかせずに、満州を諦めて世界のいいなりになって、楽しく暮らしていた方がよかったのじゃないのかって、ことです。

そんな戦わない国はアメリカが中国と戦う時、最前線に送られて痛い目を見るだけだと言われますが、その時はまたアメリカと中国の間でのらりくらりしたらいいだけなんじゃないでしょうか。

朝鮮戦争、ベトナム戦争の時にアメリカから戦えと言われて、いやー日本は戦争しません、憲法にそう書いてありますからと、逃げ切った政治家は偉かったと思います。

戦後日本は誰も戦争で死んでいないのは偉いことです。正確には朝鮮戦争の時、機雷除去で海上保安庁の方が一人亡くなっている。とにかくそれくらいしか人が死んでいないのはいいことだと思う。30年も封印されていましたが。その方の名は戦争で亡くなったのに、戦後、瀬戸内海などの機雷除去で亡くなった79人と同じ慰霊碑にその名前が刻まれているだけです。

台湾有事の時も、なんとかそんな感じで逃げ切った方がいいと思う。

『デューン』が書かれた時よりも、女性も兵士になる時代が来てしまい、世の中は戦争がしやすい環境になってしまった。『デューン』では人口の半分を占める女性がどう権力をとるかということも大事なテーマとなっている。男社会からどうやって女性社会にするかも重要なテーマなのです。そこで魔女という概念を使っているのは本当に面白い。

そういう世の中になってしまったが、子供たちは絶対戦争しないんだから、子供たちの意見ももっと取り入れていけないといけない、というか、犠牲になるのは戦争にいっさい参加せず、犠牲になるのは子供たちなんだから、戦争なんか絶対したらあかんと思うんだけど、でもその理論を覆すために、ガザもそうだが、アフリカなどの紛争地帯では小さい子供たちにも銃を持たせたのだろうと思う。子供たちの目線を忘れているだろと描いたSF映画『トゥモロー・ワールド』だった。『トゥモロー・ワールド』は何の原因か分からないが、子供が生まれなくなった世界が、そのせいで世界中で戦争が起こる世界になっている。突拍子もないアイデアだが、これは普通子供たちの前で喧嘩をしたりしないのが、普通の大人だと思うのだが、今の世の中というのは、そんな子供たちの前で平気で殺し合いをしているのはおかしくないかということのメタファーなのです。ネタバレになりますが、最後はそんな世界で生まれた子供を兵士たちが見て、神様を見たかのように、兵士たちが戦いをやめていくという感動のシーンで終わります。

台湾有事は2027年とも言われているし、本当にどうするんでしょう。

『デューン』の背景で、もう一つ面白い所は、コンピューターを拒否した世界というのも面白いのです。今AIどうするねん、って話が叫ばれてますが、『デューン』の世界ではAIと人間との間に戦争があって、AIがない世界なのです。そんな世界でどうやって宇宙航海してるねん、ということですけど、人間がコンピューター化されていて、そのコンピューター化した人間が計算して宇宙を航行しているのです。その人間をコンピューターと同じくらい計算出来るようにするために、デューンと呼ばれる惑星でとれるスパイスが必要、しかもそのスパイスはデューンと呼ばれる惑星でしかとれないと、本当によく考えられています。

『デューン』シリーズ、ロック・ファンだと『指輪物語』と並ぶ絶対読まなければならない本なので、読んで見てください。