第74回 資本とイデオロギー トマ・ピケティ(原著) 山形浩生(翻訳) 森本正史(翻訳)
- 2024.02.05
- KYOTO
フランスの経済学者のトマ・ピケティの新書『資本とイデオロギー』がおもしろすぎるのに、なぜか話題になっていません。
彼の『21世紀の資本』は13万部の大ヒットだったにも関わらず、なぜ話題になっていないのか、6000円と高いからか、と思ったのですが、なんと『21世紀の資本』も5500円でした。これ値段上がったかな、こんなに高かったでしたか。
人間というのはいい加減で、読みたいと思ったら5500円でも安く感じてしまうのです。それは『21世紀の資本』には新しいカール・マルクス『資本論』となるのかという魔力があったからです。
『21世紀の資本』は200年以上の膨大な資産や所得のデータを分析して、r>gというみんななんとなくそうやろと思っていた数式が正しいということを証明しました。
r>gとは何かといいますと、rが資本収益率で、gが経済成長率です。
ようするに、一所懸命働いている奴よりも、マンションという資本を持っていて、それを貸して利益を得ている奴の方が儲けているということです。
親からマンションという資本をもらって生まれた奴と、何も貰わず生まれてきた奴が戦っても、銀のスプーンを咥えて生まれてきてない奴は勝てないということです。
政治家でいうと、鞄を持って政治家になった子(2世議員のことです)は、鞄を持ったずに政治家になった子は勝つということです。今政治家が2世議員ばかりなのはそういうことです。
「マンション経営、そんなことないよ、店子は家賃踏み倒したり、部屋ゴミ屋敷にして出ていく店子もいるんで、大家は大変なんじゃ、だから2年ごとに更新料とってんじゃ」という声が聞こえてきそうです。
そんな出来の悪い店子に当たる確率を回避するためにマンションという資本を担保に銀行から金借りて、マンション買ったらいいやろと思うんですが、不動産屋と話てたら、銀行はそんな担保じゃ金貸してくれないみたいです。
金利が安い世の中でそんなことやっても、銀行はリスクが高いだけで、儲からないということなんでしょう。詳しく話聴いてないんで分かんないですが。
でもその不動産屋は800万でワン・ルーム・マンション買って、4万で貸したらめっちゃ儲かりますよ、というのです。
「アホな店子が当たった時のめんどくささの回避はどうするの」ってきくと、「うちがなんとかしますから」とかしか言わない。ほんまなんとかなるの、なんともならんやろと思うんですけど。不動産投資利回4.6%とかいうけど、そんなん絶対上手くいくわけないですよね。800万でワンルーム買うより、株買って、毎年配当3%もらった方が安心出来ると思います。株の方が流動性あるやろ。株は値段が半分になるかもしれんけど、ワン・ルーム・マンションも毎年価値が10%ずつ劣化していけへんか、というとその不動産屋は遠くの方を見つめて何も言わないのです。
何の話を僕はしてるんでしょう。飲み屋で隣に座った不動産家との話です。
家賃収入で不労所得得るより、株で不労所得得る方がストレスないやろって話です。違う、金持ちはこんなこと考えながら生きているという話です。きっとそして、こんな隣に座った不動産屋に騙されているのでしょう。
それでも、貧乏人より金持ちが勝っているのです。
『21世紀の資本』はこうやって資本持っている奴には勝てない、今の世の中は公平じゃないということを解き明かしてくれたのです。
『21世紀の資本』を読んで、資本持っている奴の資本を半分取って、公平に分配する世の中が正しいと思うのですが、そういう革命はなかなか起こらないのです。
というわけでトマ・ピケティは、『資本とイデオロギー』を書いたのだと思います。
革命を起こした国でも、なかなかそうするのはとても勇気がいることで、そこまで出来ず日和ってきましたという歴史を解読した本が『資本とイデオロギー』です。
むちゃくちゃスリリングです。
まずピケティは世の中というのは聖職者、貴族、平民からなる三層社会だと、全世界基本この階層に分かれていますと。これの割合いが変わったり、立場が弱くなっていくと。今大河ドラマは平安時代をやっていますが、聖職者(天皇)というのが絶対で、どんどん貴族が天皇に自分の娘を嫁と差し出して、なんとか力を得ようとする物語です。聖職者の資本を奪っていったわけです。平民は何ももたなかったわけです。今は聖職者、貴族、武士などはほとんどいなく、平民がなんとか自分たちの力を得ようとしている時代です。1000年以上かけて、世界は公平になっていったわけです。
もっと公平にしようというのが『資本とイデオロギー』です。一番なるほどと思うのが、
“ 資産税と相続税で国民所得の5%水準の歳入があれば、若い成人が25歳になったときに、平均成人資産の60%程度の支給を行えるだけの財源になる。
例を考えよう。富裕国(西欧、米国、日本)では、2010年末の平均民間資産は大体成人一人あたり三千万円だ。この場合、基本支給額は2千万円ほどになる。ようするにこの仕組みは万人に相続財産に相当するものを提供する。今日では、資産の極端な集中のせいで、最貧50%の人々は基本的に何も相続しないが(平均資産のわずか5%―10%)、上位10%では何千万円、何億、何十億を相続するものがいる。ここで提案した仕組みでは、あらゆる若い成人は自分の私生活や職業生活を始めるにあたり、国民平均の6割に相当する財産を持てるから、これによって家を買うとか起業するとか、新しい可能性拓かれる。重要な点として、この全員への公的相続システムは、あらゆる個人に25歳時点でまとまった金額の資本を保証するが、民間相続では相続年齢がかなり不確実になってしまう(死亡年や子供の誕生年はさまざまだ)。まして、相続年齢は上がってきているのだ。さらにこの提案された仕組みは、資産保有者の平均年齢を大幅に引き下げるので、社会と経済に新しいエネルギーが注入されることになる”
オチでピケティは現在の社会の停滞は老害のせいと思っていってるのが笑えます。
この突拍子もないようなアイデアがそんなに変なことではなく、昔から議論されてきたことだとも書いています。
“私が提案している仕組みは長い伝統に基づいている。1795年トマス・ベインは『土地をめぐる公正』で、ベーシックインカムの財源となる相続税を提案している。もっと最近ではアンソニー・アトキンソンが累進相続税の税収を使い、すべての若い成人に基本支給を行う提案をしている”
選挙権を持たなかった平民が選挙権を持ったように、近い将来ベーシック・インカムは実行されるでしょう。これまでの歴史を見てきたら、平民には不利な感じで実行されるのでしょう。
『資本とイデオロギー』の中で詳しく説明されています。奴隷制が終わった時、奴隷には何も与えられなかったが、奴隷を所持していた人には奴隷を失ったことに対する保証が払われたのです。こんなこと想像もしなかったでしょう。既得権益者がどれだけ自分たちに都合のいいように世を渡ってきたかが分かります。植民地の解放の時も同じでした。
トマ・ピケティは信じる公平な世界が来るのか、ひとつ言えることは人間の歴史は公平への道だったということです。きっと未来は今よりもっと公平な世の中になっているでしょう。そういうことを確信出来る本です。