カレー屋店主の辛い呟き Vol.71 「NewJeansヤバいって」
- 2024.02.05
- OSAKA
皆様こんにちは! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。
今月もこのコラムを、読んでいただきありがとうございます。
いや、完全にノーマークでした。歳取ると、どーしても経験からくる先入観とか、探究心の衰えとかで、色んな出会いのチャンスを無駄にしてる。それは、好きな音楽に関しても言えることで、やっぱ、アンテナの感度を上げておいたほーが、色々発見もあって楽しいなと。改めて思わされた出来事を、今回書いてみようかなと。ってのも。昨年末僕のお店で盟友であり、EY∃ (BOREDOMS)とのユニットFINALBY( )などで、フジロックにも出演したCOSMICLABのcoloちゃんと話していた時のこと。
「NewJeansって知ってます?」と言う彼の言葉に対して、「NewJeans?韓国のアイドルやろ?あんま聞いた事ないけど」と返した私。関西のアンダーグラウンドのシーンで育った、彼の口から出た意外な名前。「結構ヤバいんスよ。そう言えば、そのアイドルグループのプロデューサーと、ALTZがパーティーしたんスよ、サーカスで」と言葉を続ける彼。関西アンダーグラウンドの最深部にいたはずのALTZが、アイドルのプロデューサーと。ふーんなるほど。
知ってる人には当たり前の事やけど、アンテナの感度が落ちた僕の気が付かないとこで、何かが起こってるんやなーと思ったわけ。音楽の世界から、カレー屋になって10年。ブランクはデカいっス。レクチャーを受けながら、「NewJeans」を聴いてみると、「えっ。ビートカッコよ!イメージ違う」って。で、改めて深掘ってみると「NewJeans」好きか嫌いか別にして、色々ヤバいなと思ったんスよ。
◽️NewJeansのココがヤバい
メインストリームの音楽市場の方向性が、完全にアメリカからグローバルへと進みつつある2020年代。「外国語」のポップスを、世界が完全に許容し始めたこの時代。国家戦略として位置付けされたK-POPはBTSが世界的ボーイズグループになり、BLACKPINKはコーチェラのヘッドライナーを務めるなど、大成功を収めるようになったわけスけど。個人的には、フックありきの曲や、必然的に入る高音パートと、不自然に挿入されるラップ。もちろん、長い練習生期間を経ての、プログレッシヴな歌唱とダンスはスゲーとは思うけど、誤解を恐れずに言うと、どれもこれも一緒で、なんかなーって思ってました。
そんな中、2022年7月にデビューした彼女達NewJeansは、いきなりの大ヒットを飛ばし、グローバルなグループへと成長していきます。今、新たに2023年の12月に彼女達がデビューからリリースした楽曲を聴いてるんスけど、なんでこんなに全世界で支持されてるんやろと考えてみると、色々と気になることがありました。彼女達のルックや、パーソナリティがあってのことやけど、TLCやスパイス・ガールズを思い起こさせる、90’s R&Bサウンドとか、Y2Kリバイバルのムードもあったしとか。でも、明らかに従来のK-POPグループとは、異なるコンセプトを持ってんスよ。んで、当然アイドルユニットなので、誰が仕掛けてるのか裏方が気になって、更に調べてみたわけ。
NewJeansのプロデューサーであり、ディレクターであるミン・ヒジンが「個人的には、K-POPの一般的なメロディやボーカルスタイルはあまり好きではありません。どのグループも同じように聞こえる。もちろん、このスタイルを楽しむ人たちを尊重します。しかし、私はこのような要素が好きではないし、そのような要素のない音楽が存在できる世界を望んでいました。だから、細部までコントロールするために、全体のプロデュースを主導するようになりました」とインタビューで語っているように、彼女の音楽、アートセンスが色濃くでたグループやと。で、多分そのサウンドの嗜好は僕が今まで聴いてきた音と、非常に近しいモノであるんじゃないかとも感じ。従来のK-POPから上手くソフトランディングしたよーな1stEPから、2ndEPのタイミングで、その嗜好がより濃く出てきたなぁと思ったわけです。
例えば、2022年の12月にリリースされた楽曲「Ditto」は、K-POPのゲームチェンジャーになるべき(なった?)作品で、最近再流行しているボルチモア・クラブを、再構築したような最新のビートの上で、歌唱力、ルックス、ダンスが担保された彼女達の姿。少なくとも、従来のK-POPガールズグループとしての姿とは、異なったフォーマットのもので構成されているモノで、スパイスガールズのよーな、世界的ガールズアイコンになる可能性もあるなぁとも思います。(言い過ぎかも?)
ちなみに、ボルチモア・クラブって何ぞって方のために少々脱線すると。1980年代後半にボルチモアで誕生したBass Music、ブレイクビートの1ジャンル。(ボルチモア・ブレイクス、ビーモアと言ったりも。)70年代末のガラージュにルーツを持って、ヒップホップと小刻みでスタッカートを使用したハウスミュージックを融合したもの。5つ打ちのキックパターンが特徴で、現在も続く、ビーモアから発展したジャージー・クラブのリズムトラックの基本となっています。その代表的な曲はこんなん。
因みにこの「Ditto」は、本場ニュージャージーの有名リミキサー、DJスリンクもブートレグ・リミックスをUPしていて、ガチのジャージー・クラブに仕立てたmixもカッコいいので参考までに。
その後、リリースされる「Cookie」は、音質も含め今の典型的な Future R&Bの楽曲やし、2023年リリースの「OMG」はFuture R&Bをベースに、TrapのビートとUKガラージ調のビートが交互に現れる複雑なスタイル。なんかビートの選び方が抜群やし、未完成なティーンのグループと、ベットルーム・ポップ的サウンドを掛け合わせることで、新しいケミストリーが生まれてる。オモロいよなぁ。
最新のビートに乗せた彼女達の姿は、メインストリームの音楽シーンの中心に立つ野心を感じるし、NewJeansのディレクターであるミン・ヒジンのプロデュース能力にヤバさを感じます。で、誰がこの曲書いてるの?と気になって深掘りすると、更に新たなアーティストとの出会いがあったンス。
◽️250(イオゴン)とエリカ・ド・カシエール
NewJeansの”Attention”や”Hype Boy”に”Ditto”など、ほとんどの楽曲にプロデュースや作曲で関わっているキーマンが250(イオゴン)。ハンソ大学で音楽を学び、ラッパーへのトラック提供や劇伴の制作、そしてBoAやf(x)のリミックスなどでK-Popシーンにも参入し、地道なキャリアを築いてきた彼。
NewJeansの仕事ぶりも凄いんやけど、250自身が一人のアーティストとしてリリースしたアルバム「Ppong(ポン)」も中毒性を持ったアルバムで、これまた良い。K-Popの韓国の大衆歌謡であるトロットと、そのより庶民的なカラオケバージョンとも言えるポンチャック。日本でも90年代に李博士によって知られることになったこの音。因みに90年代中旬ぐらいまで、韓国の田舎でタクシーに乗ると、本当にこれ鳴ってたから、今思えば考えられへんけど。
そんな大衆音楽を、250がヒップホップやハウスなどダンスミュージックの手法を使って再解釈したのが彼のソロアルバム「Ppong」。そのユーモアと、巧みなトラックメイク、音の輪郭。なんかYMO感、てか細野晴臣感があるんよな。今回250の存在を知れただけでも良かった。それにしても、NewJeansのトラックメイクをしながら、こんなソロアルバムを仕上げるって変態やし最高。んで、この人にサウンドの部分を預けたミン・ヒジンってプロデューサー本当にヤバい。
NewJeansの曲を順番に聴いていった時に、一番好きだった曲は上に貼り付けた2曲。この曲の作曲者のとこにクレジットされているのが、エリカ・ド・カシエール。彼女は2021年にイギリスのレコードレーベル「4AD」からアルバム『Sensational』をリリースしたR&Bシンガーソングライター/プロデューサー。アンビエントやUKガレージ、クワイエット・ストームなど、さまざまなジャンルを混ぜたサウンドと、湿り気のある歌声で注目を集めたデンマーク在住のアーティスト。ベルギー人とカーボベルデ人の両親をもち、ポルトガルに生まれ、デンマークの首都コペンハーゲンで、アメリカやイギリスのR&Bを聴いて育ったという、彼女こそが音楽のグローバル化を体現してる存在と言えるかも。
僕は今回深掘りしてて初めて彼女のことを知ったけど、まだまだ世界には知らない、ワクワクさせてくれるアーティストが沢山いるはずで、彼女のコトもお気に入りとしてインプット。アンテナの感度を上げとく事は大事よな、今後名前を覚えておいたほーがいいアーティストさんだなぁと思うっスよ。
で、上に貼り付けた彼女が作曲した2曲。「Cool With You」はオーセンティックなUKガラージやし、「ASAP」は構成が非常にユニークで、彼女を含めた作曲家陣のアイデアが詰まった一曲。クラブシーンの曲をよく聴いてきた僕にも違和感がないねんな。ド・カシエールは自分たちが作ったトラックをK-POP風に仕上げられるのだろうと思っていたら、ほとんどイジられなかったことに驚いたというハナシ。その発言からも、従来のK-POPとのコンセプトの違いがわかるかも。
また「ASAP」が、2ndEP発売の時のティザーとして使われていたよーなので、この曲とこのMVが、この2ndEPのコンセプトを体現する曲であり、プロデューサーのミン・ヒジンの世界観が一番現れた曲なんやろなぁと思いますわ。
さてさて今回はNewJeansのことを、考察含めて書いてみました。本来音楽ってもっと感覚的なもんやし、あーこれ好きって思うのに理由はいらないって思うんスけど。今まであんま聴かなかったK-POPのアイドルグループの曲に引っかかった理由を僕も知りたくて、少し深掘ってみました。結果新しいアーティストとの出会いもあったし、グループのプロデューサーであるミン・ヒジンの世界観も気になります。今後、このグループがどうなっていくのか楽しみやし、何よりアイドルの楽曲やろ?と食わず嫌いをすることももったいねーなと思うわけです。
今回はこのあたりで。
ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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