カレー屋店主の辛い呟き Vol.73 「ラップ思い出話」

皆様こんにちは! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。

今月もこのコラムを、読んでいただきありがとうございます。

こないだYOUTUBEを見てたら「NUJABES」のドキュメンタリーが上がってて、当時の渋谷、宇田川界隈の話とか、日本のHIPHOPシーンのことが語られてる興味深いムービーだったんスよ。で、このムービーについてコラムを書き始めたら、もうムービーは削除されて見れなくてね。権利関係とか、大人の事情があったんスかね。ドキュメンタリーを見て、色々思うこともあったし、書きたいこともあったんスけどね。

(あっ。ちなみにNUJABESってアーティストは、こんなビートを作ってた人ね。元ネタ集やけど。)

彼がやっていたギネスレコードに通って、彼や、他のお客とのおしゃべりの中から、Digする=深掘りする、サンプリングする=引用する、再構築をするHIPHOPの面白さを再確認できた貴重な時間と空間。陳腐な表現やけど、失って始めてわかるんスね。net上に無数のビートメーカーがいて、数え切れないほどのビートが存在して、それを売るためにType Beatとしてネーミングして、それをラッパーが買うってのが現代のHIPHOP。そんな時代になってもHIPHOPの本質は、あの頃と変わってないよーな気もするし、OLDSKOOLなあの時代を、懐かしむ自分もいたりして。なんちゅーかね、歳とったんやなぁと思いますわw

と、前置きが長くなっちゃいましたが、今回何を書きますかね。ムービーが見れないので、書くことなくなったなぁ。今、頭の中は当時のHIPHOPの思い出でいっぱいなんスけどネ。それじゃちょっと時代を遡って、1990年ぐらいから95年ぐらいの思い出バナシでもしてみますか?それは、僕がラップにハマったキッカケと、日本語ラップの創世記の話。何となく好きになったのではなくて、明確にキッカケになった2枚のアルバムがあるんだよなぁ。HIPHIP好きのベテランには、知ってる話のよーな気もするけど。最近ラップバトルとかで、ラップが好きになったミナサンには、更に深掘りするキッカケになるかも知らんしな。ほな、始めてみましょうか。

■Eric B. & Rakim「Paid in Full」

Eric B. & Rakim – I Ain’t No Joke

90年に始めての海外旅行でNYに行って、ロック好きの子供やった僕が、ハウスミュージックとHIPHOPにどっぷりハマったこの頃。ひょんなことから半年も滞在して、日本料理屋でバイトすることになるんやけど、そのバイト先の寮の同室の先輩から教えてもらったのが、このEric B. & Rakim「Paid in Full」ってアルバム。これに完全にハマったんスね。クイーンズ出身のDJのエリック・Bと、ロングアイランド出身のラッパーラキムは、1985年にエリック・B&ラキムを結成し活動を開始。そして、1987年にリリースしたのがこの「Paid in Full」。

英語が全然話せなかった僕の耳にも、叫び訴えるよーなラップのスタイルじゃなくて、クールに話しかけるよーなそのスタイルは新鮮で、ジャズやファンクのサンプリングしたビートも、知的な感じも、なんかヤバくて、「新しい音楽を聴いているのだ俺は。それもNYで」と興奮したのを覚えてる。スマホや、インターネットが無かった時代、いい事があるとしたら、この初期体験の衝撃の大きさよな。

後にこのアルバムはMTVが選ぶ「最も優れたHIPHOPアルバム トップ10 」において、No1に選ばれたこともある作品になり、天才ラッパー「Nas」を含め、多くのヒップホップ・アーティストに多大な影響を与えたグループになる。僕がその作品を受け取った90年当時のNYでは、すでにクラシックスで、持ってて当然の一枚やった。まぁストリートの話で、マスの話やないけどね。

Eric B. & Rakim – Paid In Full (Coldcut Remix)

で、何を歌ってるか気になって、同室の先輩に教えてもらうんやけど、先輩達もアホばっかで要領を得ないんスねw 仕方がないから、NYに当時あった紀伊國屋書店に行って日本語訳が入った日本盤(なのかな?)を買いましたよ。高いお金出して…。んで、訳詩を見てみて、また感動。繰り返し繰り返し聴いて、スラングを覚えたりしましたさ。Googleがない時代の美しい思い出やけども。

ラキムの書くリリックは、虚勢を張り自分を大きく見せるのが基本のラッパーのリリックとは違って、自身の弱さも含めた等身大の素直な心情が、リリカルな表現と、描写力で書かれてる。上に貼り付けた「Paid In Full」の、短いラップ部分のリリックなんて、当時のアホやった僕には沁みたなぁ。今では色んなラッパーがサンプリングしてる、名パンチライン”Thinkin’ of a master plan”=“マスタープランを練ってみる”から始まるこのリリック、もう文学作品なんよなぁ。

Eric B. & Rakim – I Know You Got Soul

■KING GIDDRA「空からの力」

KING GIDDRA「空からの力」より「見まわそう」

そうしてすっかりHIPHOPが好きになり、日本に帰り、日本語のラップも聴いてみたけど、何だコレって感じ。僕も海外のラップしか聴かなかったし、当時は、日本語でラップするのは無理と言われてた、日本語ラップの創世記。シーンもどうやってHIPHOPのビートに日本語を乗せるのか試行錯誤。ほんとラップの教科書が無かったんスよね。まぁ、90年代前半の日本語ラップの音源を今聴くと、その試行錯誤ぶりがよく伝わって逆にオモロいんやけど。

で、そんな試行錯誤を各アーティストがやってる中、一つの正解を提示したのが、この作品KING GIDDRA「空からの力」。HIPHOPファンなら、誰もが知ってるこの作品、今じゃ当たり前になっている、日本語でラップするベースを作った作品で、ゲームチェンジャー的一枚やと思うんス。日本語でラップするための、韻を踏む技術ということでしょか。倒置法や体言止めを多用して、語尾に名詞となる単語を使って、その単語単位で踏んでいく。これ発明っス。他にも日本語で韻を踏む技術が、多数披露されているこのアルバムには僕も衝撃を受けたし、ここから日本のラップのリリックをちゃんと聴くよーになったっかもしれない。

KING GIDDRAはZeebra、K Dub Shine、DJ OASIS の3人からなるグループで、「空からの力」は1995年に発表された日本語ラップのクラシックス。その名前のキングギドラは、海外で有名な日本の象徴「ゴジラ」に対しての最強の敵。その金色の体も、ラッパーがよく身につけるゴールドジュエリーと繋がるからつけたそう。つまりこのアルバムのタイトル「空からの力」は、宇宙からやってきたキングギドラ(ヒップホップ)が、新しい概念で、古い日本の象徴(既成概念や音楽シーン)に挑むってな意味があるンス。

キングギドラ/大掃除

例えば、「空からの力」収録曲の「大掃除」では、K Dub Shineが「連れて行かれた位置(1)に(2)三(3)途の川/誰も死(4)後(5)ろく(6)な名(7)前とかもらわず影の過激派(8)地球(9)自由に脅かし中 死亡数10」と数え歌を披露してる。これ実は、アメリカのラッパーよくやる手法。「俺らも日本語でやってみるか?」って思ったのか知らんけど、そんな若気の至りが、当時の若者を熱狂させたンス。このラインに引っかかった若者は多いと思うな。

キングギドラ/行方不明

僕が好きだったのは「行方不明」の中の、「ヘッドホンで聴いて街を颯爽/と、歩けばかかるI Know You Got Soul」のライン。見事な情景描写と、やっぱラキムは聴いてんだよなぁってゆー親近感。当然I Know You Got Soulは上に貼り付けたEric B. & Rakimの曲やし、僕と同時期にアメリカにいた、彼等の同じ風を感じた親近感が半端なかったなぁ。

キングギドラ/空からの力 (Part2)

これも有名なラインやけど、「空からの力 (Part2)」の中の、「日本列島誰の国/大統領のつかむ襟首」ってもの。これ当然襟首=Eric B.なんやけど、短い中に今の日本の状況と、それに対する意思が込められた名ライン。このアルバムの中で、このラインの他にも彼等はポリティカルやし、今までの価値観からの脱却を唱えた、社会的メッセージを多く発信してる。これは同年代に活躍したアメリカのラッパー達が、そういうスタンスをとり、影響を受けたってこともあるんやろーけど。このアルバムの前述したコンセプト「宇宙からやってきたキングギドラ(ヒップホップ)が、新しい概念で、古い日本の象徴(既成概念や音楽シーン)に挑む」ってのが大きかったやろな。この作品以降、こういうスタンスを持ったアーティストが多くなり、リアルでアンダーグラウンドなHIPHOPが益々活況になっていくんス。

キングギドラ/スタア誕生

また、「スタア誕生」では、当時NASやCOMMONが始めてた、「ストーリーテリング」の手法をいち早く取り入れ、この曲はこのアルバムの中でも異彩を放つ一曲となってます。主人公の女の子が闇に落ちるストリートの悲劇や教訓。日本語のラップシーンでは、今じゃ当たり前となった、こうゆうリリックの視点と手法を広く認知させる事になったのは、この曲の存在が大きいんじゃないかと思うわけですわ。

さてさて、今回は思い出話をしながら、ラップの名作クラシックス2作品の解説もどきをしてみました。書いてる事はあくまで僕の想像とか、考えであってるかどーかは知らんけどw

HIPHOPってのは掘れば掘るほど面白いモンだし、ラップだけにかぎっても作品の中に隠しアイテムや、ボーナスポイントをアーティストは隠してるモン。それを見つけるのが、HIPHOPの醍醐味でこのカルチャーの楽しみ方の一つやと思うっス。

それでは今回はこの辺りで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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