偏執的音楽紀行 Vol.1 「分からないものは分からないままに」
- 2024.12.29
- COLUMN FROM VISITOR
2024年ももう年の瀬。今月から本サイトで連載コラムを寄稿することになった。月から金まで大阪の某メーカーで会社員として働きつつ、音楽好きが高じてライターをたまにやらせてもらっている三浦孝文と申します。フジロック公式ファンサイトの「FUJIROCKERS.ORG」、フジロックの現場を伝えるべく毎年立ち上がる速報サイトの「FUJIROCK EXPRESS」、姉妹サイトとしてより音楽にフォーカスした旧サイトの「SMASHING MAG」を引き継ぐ形で2018年に縁の仲間たちを開始した「LIM PRESS」。このあたりが主な投稿先だ。
「FUJIROCKERS.ORG」 http://fujirockers.org/
「FUJIROCK EXPRESS」今年のサイトはこちら https://fujirockexpress.net/24/
「LIM PRESS」https://limpress.com/
初回ということで、所信表明から。SMASH WEST代表の南部さんからこの機会をいただき生み出したテーマが「偏執的音楽紀行」。音楽を聴くという行為はどこまでも広く、深い世界を旅するようなもの、つまり紀行。そして、書くという行為はつまるところ自分が読みたいものを書くこと、なら偏執的にならざるを得ない、ということでこのテーマが浮かんだ次第だ。本テーマからレコードレビューやライヴレポート、音楽にまつわる本に映画などなど、個人的に引っかかった諸々に対する雑感を綴っていけたらと思っている。
本テーマ「偏執的音楽紀行」をダイレクトに感じた『soundtrack』を取り上げたい。去る盆休みに、ふと家の書棚を見て目に付いて手に取ってみたのがこのZINE(ジン)だ。帯で「楽雑談集」とデカデカと主張している通りの全12編、音楽にまつわる会話の連弾集。これがすこぶる面白かったのだ。手に馴染む紙の質感も抜群。サテツマガジン編集室という有志のクリエイターたちが手掛ける『SATETSU MAG』の別冊で、2022年に発刊された。

『SATETSU MAG』https://www.instagram.com/satetsumag/
大阪はAlffo Recordsで開催されたリリースパーティーで、編集室のメンバーたちが仲間ということもあって即購入したものの、長らく積読状態に。積読の本や未聴の音楽。皆さんも身に覚えがないだろうか。
Alffo Records https://alfforecords.net/
この手の状況は何も悪いことはないと思っている。ふと再会した時こそがドンピシャのタイミングなのだから。今自分に必要なものはすでに手にしていることが多い。ご自宅の棚を目を通してみてはいかがだろう。思いがけないお宝が潜んでいるかもしれない。
これといった予定のない休日にカフェで読書をしながら過ごす時間は最上だ。入った喫茶が読書を邪魔されない程度に音楽が流れているならなおいい。このZINEを片手に大阪平野区にあるカフェ「あひる珈琲」へ。
「あひる珈琲」https://ahirucoffee.com/
珈琲を口に含み、気持ちを整えページをゆっくり開く。最終頁のIndexで目を引かれたのは最終章。今年のフジロック出演が話題を呼んだ、シロップことsyrup16gに対する思い入れがあれこれ語られているようだ。しかも雑談を繰り広げている四名のうち二人、あたそとあべは今年フジロックで現場を走り回ったライター仲間じゃないか。ライターのシフト希望を募る時から二人のシロップ愛は尋常じゃなかったなと鮮明に蘇る。思いがけず最終章から読み進めることになった。
あたそによるシロップのフジロックライヴ速報はこちら。
https://fujirockexpress.net/24/p_868.html
正直に言う。シロップは全然好きじゃなかった。ロックンロール、ハードロックやヘヴィメタル、76年頃の初期パンクこそがロックだと信じてやまなかった22歳当時の料簡の狭さが故。許してほしい。音楽を聴くにあたって歌詞を重要視していなかったというのもあるかもしれない。そんな身も蓋もないところから本章を読み進めていくと驚きや発見の連続。シロップ愛と呼んだら陳腐になってしまう感情がとぐろを巻くように紙面を埋め尽くしているのだ。そのどれもが私にはまったくない感情。雑談の中で盛り上がっていた“神のカルマ”のビデオ屋の下り、読み終えた後に歌詞をしっかり目で追いながら聴いてみたものの、やはり私にはピンと来ない。でもそれでいいんだ。分からないものは分からないままで。会話の渦中にいる4人でさえ噛み合うような、噛み合わないようなところにいるのだから。その人がこれまでに見たこと、聴いたもの、触れたもの、体験してきたこと…好きなものも嫌いなものもそれらすべて、人生の集積がその人そのものでありかけがえのない資産。誰一人として同じじゃない。
シロップの章にはじまり、文才がほとばしるライナーノーツに目頭を熱くさせられ一気に全エピソードを駆け抜けた。自分にはない視点に山ほど触れ、感情を揺さぶられる。まさしく「偏執的音楽紀行」のオンパレード。しかも行動を駆り立てられるのだ。少なくとも私は知らなかったTETORAを聴くべく促され、大阪キタの音楽の聖地としてバナナホールからAKASOと経て今年10/31をもって幕を閉じたumeda TRADでのThe ピーズのライヴに行こうと決心させられることになった。ぜひ『soundtrack』を手に取っていただきたい。さて、こうも強くお勧めしておきながらこれ、今どこで手に入れることができるのだろう?数ヶ月前に大阪のディスク・ユニオンのZINE特集で売られているのを見かけたが…。編集室のメンバーがきっと手売り分くらいは持っているはず。ご興味のある方がいたらご一報を。繋ぎます。