第85回 国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源 ダロン・アセモグル(著)ジェイムス・A・ロビンソン(著) 鬼澤忍(著)

国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源 ダロン・アセモグル(著)ジェイムス・A・ロビンソン(著) 鬼澤忍(著)
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僕がなぜ経済に興味を持ったかというと、11歳の時(1976年)に、高畑勲の傑作アニメ、『母をたずねて三千里』を見たからです。

イタリアのお母さんが、なぜ貧しそうな南米の国、アルゼンチンへ出稼ぎに行くのだろうということに疑問を持ったからです。

その答えは何十年も経って分かりました。今回紹介したい本『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』にも出てきます。

ノーベル経済学者、GNP統計の父サイモン・クズネッツの名言「世界には四種類の国がある。先進国、発展途上国、日本、アルゼンチン」です。

どういう話かといいますと、先進国の国はずっと先進国で、発展途上国はずうっと発展途上国、その中から唯一抜け出せたのは、日本とアルゼンチン、そして、その中で日本だけはずっと先進国で、アルゼンチンはなぜか没落していったと。

高畑勲が『母をたずねて三千里』で小学生の子供に何を見せたかったかというと、高度成長で浮かれていたとしても、日本もアルゼンチンになるかもしれないよということを伝えたかったのでしょうか?

『母をたずねて三千里』にはすごいエピソードがあるのです。主人公のマルコが、渡米するための船賃を稼ごうと、ワインボトルの回収のバイトを始めます。お金もよくマルコは「この調子だと、1ヶ月後には船賃が貯まるぞ」と頑張って、回収した瓶を持っておじさんの所に行くと、おじさんが途方に暮れた顔で、ボーと座っているのです。マルコが「おじさん、どうしたの」と聞くと、「もうお前にお金を払ってやれない」と呟くのです。「ガーン」とショックを受けて、「どういうことってきくと」「ワイン・ボトル洗いの機械が作られて、誰もワシの会社が洗ったコストの高い手洗いのボトルなんてどこも買ってくれないんじゃ、ワシの会社は潰れるんじゃ」ということでした。

すごいエピソードでしょ。このアニメがやっている頃、ちょうど同じことが僕らの町内でも行われていて、お酒の一升瓶を一本10円で酒屋が買い取ってくれていたのです。だからあの頃、どんだけ貧しい子でも瓶を5本集めたら、菓子パン50円買えて、飢えなかったんです。

完全にビット・コインの登場でした。僕らデパートの裏から、スナック、色んな場所に行って頭を下げて、酒瓶を回収してました。

そんなバイトがなくなるかもしれないという衝撃です。

本当になくなるんですけどね。

今そんなことやる奴誰もいないですよね。

アルミ缶回収とかやってみようかなとたまに思います。

あの頃、百円あったら超金持ちだったんですけど、そうか百円貯めれなくなることがあるんだという子供の鼻をへし折るエピソードでした。

しかし、宮崎駿の師匠、高畑勲は、何を伝えたかったんですかね。

近年の宮崎駿は、戦争で儲けている父を自分は批判せず、父からもらう甘いチョコレートを無自覚に食べていた自分と、子供たちを悪の世界に連れていってしまうアニメをいまも作ってしまう自分を照らし合わしながら、アニメとは何かという作品を作っています。

僕は、高畑勲、宮崎駿の二人の巨匠のアニメを子供の頃からずうっと見させられて、ずうっと”君たちはどう生きるか”と問われています。

恥ずかしながら、東京に行った時はいつも、小金井のスタジオ・ジブリの前を通って、鈴木プロデューサーと宮崎駿が怒鳴りあっている声が聞こえないかなと思うのですが、スタジオ・ジブリのある道は世界一平和なのです。

昼間に行った時は、いつもジブリの近くの江戸東京たてもの園に移築された高橋是清が暗殺された母屋で、日本のことを考えるのです。

『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』の著者ダロン・アセモグル教授とジェームス・A・ロビンソン教授、サイモン・ジョンソン教授が今年のノーベル経済学賞を取りました。その理由はこの本に書いてある通りなんですけど、制度がどのように形成され、国家の繁栄に影響を与えるかの研究」です。独裁国などが、制度を利用して、民衆から搾取することによって、貧しい国は、豊かになれないということを立証しました。

僕がよく紹介するエマニュエル・トッドなどは、それはその地域の家族構造によって決まるという説を唱えていまして、真っ向から戦っていくわけです。僕がこういった本を読むのはどっちが正しいのかなということでなんですけど。

その答えはあと30年以内には分かると思うんですけどね。エマニュエル・トッドが言うように、西洋社会は衰退して、中国が覇権を握るのか、それともダロン・アセモグル教授、ジェームス・A・ロビンソン教授、サイモン・ジョンソン教授がいうように、制度に問題を抱えた中国は崩壊していくのか、ロシアは衰退していくのか、一体どっちなんでしょうね。

西洋社会の弱体を見ていて、ちょっとロンドンに住みたくなってます。本当にイギリス、アメリカからロックが終わりかけているのはそういうことなのかなと思っているのです。