第86回リック・ルービンの創作術 リック・ルービン (著), ニール・ストラウス (著), 浅尾敦則 (翻訳)

ルービンの創作術 リック・ルービン (著), ニール・ストラウス (著), 浅尾敦則 (翻訳)
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ヒップホップをクラブで聴くあの感じをレコードで再現した男、リック・ルービン。リック・ルービン以前のヒップホップは、スタジオ・ミュージシャンにあのクラブの感じを再現してもらっていたのですが、どこかクリーンでなんか違っていたのです。はっきり言ったら日本で、始めてヒップホップを下地にした大ヒット、吉幾三先生の「俺ら東京さ行くだ」と変わらないのです。

一番最初のヒップホップのレコード、ファットバック・バンドの「キング・ティムIII」とシュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」のあの感じです。「なんかヒップホップ、ラップというのが、ストリートで流行っているよ」ということで、スタジオ・ミュージシャンにやらせた感じ。本当にパーティーをやっていたクール・ハーク、アフリカン・バンバータ、グランドマスター・フラッシュには声はかからず、なんとなくその周辺にいた人たちが、「俺もそれ出来るから」とやってしまったんです。むちゃくくちゃ黒人らしいと言えば黒人らしいエピソードなんですけどね。

リック・ルービンは、なぜ、超一流のファンク・バンド、ファットバック・バンドも再現出来なかったヒップホップをやれたのか、そのヒントがこの『リック・ルービンの創作術』には書かれております。

一応その基本となっているのが、あのビートルズもやっていたマハリシ・ヨーギーの瞑想です。正確には超越瞑想と言うのですが。これ前にも書いたかも知れないですけど、他の瞑想と何が違うかと僕も超越瞑想やりましたよ。ヨーギー財団の人に怒られるかもしれませんけど、座禅などと変わらないなと僕は思いました。

リック・ルービンにプロデュースをお願いすると、もれなく超越瞑想がついてきます。ちゃんとマハリシ総合教育研究所から講師を呼んで、4日間のレクチャーをしているのです。レッチリのメンバーもちゃんとこのレクチャーを受けて、講師の話をずっと馬鹿にしながら笑いつづけてたそうですが、「いまでも、煮詰まった時は、マントラを唱え、瞑想している」とレッチリのアンソニーはインタビューで答えています。

リック・ルービン、この瞑想代、レコード会社に請求してるんですかね。請求書に書いてあったら笑えます。

でも、日本でも京セラの稲盛さんやソニーの井深さんが、超越瞑想を昔会社が朝、ラジオ体操するみたいな感じで取り入れようとしていたらしいです。会社はそういうスピリチュアルなものから、距離を置くようになったみたいですね。

集団瞑想って、けっこうパワーがあるので、やっていたら面白かったのにと思うのですが。僕は超越瞑想の方たちと集団瞑想するのはちょっと恥ずかしいので、月に一回、京都の健仁寺で開かれる座禅と法話の会「千光会」に行っています。毎月二百人くらいの方が集まって、祇園という京都のど真ん中にあるのに、座禅をしている時は、鳥のさえずりが聴こえたり、救急車のサイレンを聞きながら、二百人の方と座禅しているのですが、気持ちがいいです。座禅中、超越瞑想で伝授されたマントラを唱えながらやっています。そのおかげか、僕は一度もバシーってしばかれたことがないのです。

超越瞑想をやりだしてから自分では何の作品も作っていないのですが、そろそろ何かやろかなと思っています。

リック・ルービンは本の中でこう書いています。

“あらゆる自然の美には数学という目にみえない糸が織り込まれている。

 らせん状の巻貝と銀河に共通の比率を見出すことができる。花びらにも、DNAの分子にも、ハリケーンにも、そして人間の顔にも。

特定の比率が神聖なバランスの感覚を生み出している。

 私たちが美の基準にしているのは自然だ。アートを作っているときにそのような比率に出くわすと、私たちは不安が解消されたような気分になる。私たちの創作物は私たちが最も畏怖の念を抱いている関係に触発されたものだ。

(中略)

 音楽では、ハーモニーのルールは数式で説明することができる。すべての音には波長があり、どの波長も他の波長と特定の関係にある。ハーモニックな音の組み合わせは数学の原理から計算で導き出すことが可能なのだ。

 波長はどんなものにもある。物体にも、色にも、アイディアにも。そして、それらを組み合わせことで新たな振動(バイブレーション)が生まれる。その振動がハーモニーを奏でることもあれば、奏でないこともある。

(中略)

 偉大な作品が必ずしもハーモニーを奏でているとは限らない。アンバランスさや不安定感が作品のポイントになっていることもあるのだ。”

まさにリック・ルービンの初期のヒップホップ作品とはこれですよね。クール・ハークのブレイク・ビーツと呼ばれるレコードを二枚掛けしながらビートを作っていくグルーヴはちゃんと音楽的トレーニングを受けてきたミュージシャンには数式がおかしいものだったのかもしれませんが、リック・ルービンやアーサー・ベイカーという人たちが、音楽の数式的にはおかしいDJの世界観を汲み取り、ヒット曲にしていったのです。まさに新しい宇宙が生まれたような衝撃を僕らは感じたのです。

DJたちは新しいグルーヴを作ってたんですよね。

死ぬまでにまたそんな衝撃に出会える確率はどんどん少なくなっています。自分がそんな音楽を作ることなんか絶対無理だと思うのですが、この本を読みながら、なんかいつか自分も新しいことを生んでみたいなと思っているのです。