第88回 巨神計画 (創元SF文庫) シルヴァン・ヌーヴェル (著), 加藤 直之 (イラスト), 渡邊 利道 (その他), 佐田 千織 (翻訳)

巨神計画(創元SF文庫) シルヴァン・ヌーヴェル (著), 加藤 直之 (イラスト), 渡邊 利道 (その他), 佐田 千織 (翻訳)
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『サピエンス全史』『ホモ・デウス』のユヴァル・ノア・ハラリの最新作『NEXUS 情報の人類史』を紹介したかったのですが、1ヶ月で読めませんでした。ユヴァル・ノア・ハラリの、人類は戦争、飢餓、病気を克服し神(ホモ・デウス)になったという予言が大外れ、ほとんど第三次世界対戦前夜のロシヤの侵略、弱い者は強い者に従うという帝国主義時代の論理で外交を進めるトランプ大統領、この時代に逆行した流れを彼がどう分析しているのか、楽しみにしていました。人類とは虚構を使い、相手を信じさせることにより、地球の王者となったと解き明かした彼らしい、情報というのは90%が嘘なのだというすごい説を唱え出しています。でも彼の説明を聞けばなるほどと思わせてくれます。A I時代になって、AIによる真実が地球を覆い出した今、僕らはどうやって生きていったらいいんだろと考えさせられる名著です。

『NEXUS 情報の人類史』は次回紹介させてもらうとして、今月は春のうららにふさわしいSF小説3部作『巨神計画シリーズ』を。どれだけ寝ても眠たい春はSFというよりファンタジーに近い『巨神計画シリーズ』を読み、色んなことを想像しながら眠りに落ちていくのはとても気持ちいいものです。

アメリカの片田舎で少女ローズが発見した、イリジウム合金製の巨大な“手”と、謎の記号群が刻まれたパネル。それらは明らかに人類の遺物ではなかった。長じて物理学者となったローズの分析の結果、その手は6000年前に地球を訪れた何者かが残した、体高60メートル超の人型巨大ロボットの一部分であると判明。そして、謎の人物“インタビュアー”の指揮のもと、地球全土に散らばっているはずのすべてのパーツの回収・調査という、空前の極秘作戦がはじまった。

このあらすじを読んでいるだけで読みたくなるでしょう。

日本のアニメを見ているかのようなSF小説です。三部作と長いですが、三部ともテーマが分かれていて、読みやすいです。三部などは現在のトランプ時代への怒りが現れていて、共感しながら読めます。

僕が子供の頃はSF界からは「アニメなんて」とバカにされていたのが、こうやって、世界中の人から愛されているのを嬉しく思います。

アニメのシナリオのような会話形式なので、初めは取っつきにくいかもしれませんが、慣れると思います。巨人(ロボット)同士の対決は、操縦者同士の会話だけでなりたっているのですが、どんなSFよりもスピーディーで興奮します。日本のアニメって優秀だなと思いました。

しかし、欧米の人というのは巨人伝説が好きです。日本も『進撃の巨人』で突然巨人ブームが起こりましたが、日本の人にはあまり巨人というのはピンと来ないですかね。僕らの文明が気づかれる前に実は巨人の世界があったというお話が欧米の人は大好きです。日本の神話に出てくる神様も、日本の島々を産んでいくのだから、どう考えても巨人なのですけどね。

間違っているかもしれませんが、人口が増えると巨人伝説はどこかに行き、人口が減ってくると巨人伝説が語られるような気がします。人が細々住みあっていたら、昔巨人が文明を作っていたかもという想像なんかわかないですよね。

宇宙もそうですけど、巨大なものが自分たちの世界の原型を作ったと崇拝することは当たり前のことかもしれないですけどね。

この小説もそういう神秘的な話になっていくのかと思えば、よくある宇宙ものに収束していくのですが、最初に書いたように、反トランプというか、反民族主義になっていくのです。

6000年前に地球に訪れた何者かが、そのまま住みついたとしたら、6000年後にはほんとんどの地球人はその宇宙人と血が繋がっている。ねぇ、そうなんですよ。民族の純潔がといったって、そんな純潔な奴はいないわけです。ロシアとウクライナもそうです。韓国人が、日本人がというのがどれだけ馬鹿げたことか。

元々、僕らビッグ・バンという爆発から生まれた兄弟なんですから。そんな大きな気持ちにさせてくれるのがこの巨神シリーズ三部作です。