カレー屋店主の辛い呟き Vol.75「nujabesの話」

皆様こんにちは! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。

今回も、このコラムに辿り着いてくれてありがとうございます。

以前、このコラムで書いたような気もしますが、僕がカレー屋になる前、色々な立場で音楽を生業とした仕事をしてきました。チケットをプロモーション、セールスした時期。文章で記事にした時期。レコードやCDを制作した時期。ライブハウスや、クラブをやった時期。ブッキングをしたり、興行を打った時期。ライブの制作をした時期。マネージメントをした時期。書いてみると、意外となんやかんやしてるんスね。

で、カレー屋になって11年。今、思い返すと、楽しいことはより楽しく、苦いことはより苦く、後悔することはより深く、より鮮明にその時の記憶を思い出すことが、最近増えたよーな気がします。

てかなんか、昔のこと語るとエモくなるよな。歳ですかね。

そんな日々の中で出会い、残念ながら亡くなってしまったアーティストさんも多いんスけど、毎年この季節になると思い出すアーティストがいて、それが「Nujabes」氏なんよな。2月26日が、彼の命日ってこともあってか、彼の記事、彼に関連する動画なんかを目にする機会が増えて、どうしても思い出しちゃうんスね。

彼との出会いについては、以前にも書かせてもらったけど、彼が経営してた「GUINNESS RECORDS」「Tribe Record」のオーナーと客で、1998年頃-彼がHARLEMでやってたパーティーの客。一言で言うと単なるそんな関係で、仕事の話はあまりしなかったけど。僕にとっては、彼や、彼の周りのビートメイカー・DJ達との交流を通じて新しい音楽、カルチャー、世の中の楽しみ方etcに触れるきっかけになった人。今考えると、僕にとってあの時代の彼と、GUINNESS RECORDS周辺の影響って意外とデカかったなぁと思うんです。

で、今回は彼についての話をしよーかなと思うんやけど、最初に「MUSIC IS MINE MUSIC IS YOURS」という一本のドキュメンタリーを皆さんに紹介しときますね。

■ドキュメンタリー「MUSIC IS MINE MUSIC IS YOURS」とは

sabukaru Presents: A Nujabes Documentary – MUSIC IS MINE MUSIC IS YOURS

この作品は、監督のAbeSelassieが、Nujabesと親交の深かったアーティスト達への膨大なインタビューと、日本のヒップホップのその当時の貴重映像をmixしながら、DJ、トラックメイカーNujabes(ヌジャベス)の姿に迫った、約2時間のドキュメンタリー動画なんやけど、これ実は去年もこのコラムで紹介しようと思ったんスね。ただ、コラムに書こうと思ったら消えてて、その後もアップされては消え、されては消えを繰り替えしている作品。だから、上のリンクもいつまで見れるのかわかんないけど、作品名は覚えておいて。消えてもまた誰かがアップするやろーからw

で、アップして、すぐ消される本当の理由はわかんないけど、多分その理由は「ブート」(海賊版・非正規品)なドキュメンタリーやから。シーンの様々な映像、音源や、当時のTV映像が使われてるのに、許可を各方面にとってると思えないからねw でも、これこそがHipHop。

サンプリングカルチャーってHipHopにおいて重要な要素で、いいか悪いかより、ヤバいかヤバくないかが重要なやし、ブートで発表して、たどり着くやつだけ楽しめってゆー姿勢も90‘味を感じる。

で、Nujabesにとってもサンプリングと再構築は、一番重要な要素やと思うし。

彼は、生きていた36年の生涯の中で、インタビューなどの取材をほとんど受けなかったけど、この作品を見て彼の人となりや、彼の考え、当時のシーンの状況などを知ることが出来るこのドキュメンタリーは、本当に貴重。今のHipHopヘッズや、カルチャーに興味を持った人に観て欲しいなぁ。

少しだけ交流を持った僕の立場からすると、この映像はとてもエモく、そうやったなという確認でもあり、RADWIMPSのくだりなんかは、そうやったんやという発見でもある。彼のなんてゆーか「根拠のない自信」を持って、当時のシーンと向かい合ってた姿に、エモさと再確認を感じられたとゆーかさ。

あの頃から20数年経って、今やNujabesは世界的に有名になって「Lo-Fi HipHop」「Jazzy HipHop」のオリジネーターとして語られることが増えたけど、それには違和感があって。ジャズのサンプリングや、HipHopに傾倒してたのは事実なんやけど、それは彼の進化の過程の1手法だったはず。僕との会話ではハウスの話がほとんどやったし、そのグルーヴ感を出すために2小節のサンプリングのループにこだわってた。ある意味、ミニマルのテクノやったり、ハウスに親和性があると思うんスね。彼は残念ながら、亡くなってしまったので、アーティストとしての進化は見ることが出来なかったけど、生きていたら「Lo-Fi HipHop」のオリジネーターではなくて、独自の進化を遂げた人になっていた気がするんよ。もしかしたら、音楽家ですらなかったかもしれないけど。

■サンプリングの重要性

彼が残した作品(特に初期楽曲)の特徴って、メロディアスな上ネタをサンプリングして、ループさせたトラックやと思うんやけど、僕はこのサンプリングのネタ選びと、配置のセンスこそが彼の音楽、てゆーか彼自身の一番の魅力やと思うんですわ。それは、サンプリングの音楽的なテクニックのことではなくて、

もっと広い意味での引用のセンス。先に彼自身のグルーヴがあるとゆーか、なんとゆーか。

Nujabes / reflection eternal

I Miss You / 巨勢典子 (Kose Noriko)

Kenny Rankin – Marie (1975)

例えば、これは知ってる人も多いと思うけど、彼の代表曲「Reflection Eternal」は、ピアニスト巨勢典子の「I Miss You」(これも名曲だ)の冒頭4小節をループして、Kenny Rankin の「Marie」の歌詞の一節「You’re a flower , You’re a river , You’re a Rainbow」を乗っけたもの。このフレーズをサンプリングして、この曲に乗っけるってセンスには震える。多分、こっからは想像やけど、先にこの「You’re a flower , You’re a river , You’re a Rainbow」の言葉か、それに似た感情があって出来た曲やないかと思うわけ。だから、あのグルーヴが生まれるよーな気がします、知らんけど。

んで、余談ですが。あるYouTuberさんの動画を観て知ったんやけど。アーティストの藤井風が、この「Reflection Eternal」にインスパイアされて出来たと公言してる「特にない」って曲があって、コード進行とか共通点はあるんやけど、何より曲のテーマ性とグルーヴが似てる。これが、手法だけを真似た「Lo-Fi HipHop」との違いやと思うし、藤井風のセンスとゆーか天才性やと思うんやわ。

このYoutubeの動画も非常にオモロいので、貼り付けときますね。

reflection eternal の作り方 そしてNujabesが藤井風に与えた影響

Tokuninai / 藤井風

彼=「Lo-Fi HipHop」のオリジネーターと言う話はそりゃそうなんやけど、それは彼のこの時期に残した手法で、彼の一部やと思うんスね。特筆すべきは、彼のサンプリングのセンスと、デザインだと思うんよね。彼の卓越したサンプリングセンスって、音楽じゃなくても通用するもんやったと思うし、音楽に関しても、前述のドキュメンタリー内でも語られているように、この後、彼はサンプリングの権利関係の難しさに悩み、生演奏でメロディを表現するようになっていく。残念ながら、彼が次のステージに移行する途中で亡くなってしまう事実。生きてたら、どんな音楽を生み出しただろうと思うんスね。

そして、僕は彼の引用=サンプリングのセンスと再構築のデザインに強く惹かれるし、その視点を常に持たなあかんなと思うんです。僕は音楽家ではないので、音楽どうこうの話じゃないけど、生きていく中で何を拾って、何を繋げて、クリエイティブして、何を生み出すかって、人それぞれが持つ個性やと思うし、それを常に意識できるのかが、重要な事のような気がします。

今回はまたアップされていたnujabesのドキュメンタリーを見ながら、感じたことをダラダラと書いてみました。もう亡くなって10年以上経つ彼のご冥福をお祈りします。

今回はこの辺りで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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