特殊音楽の世界42「アメリカン・ユートピアとディクシー・チックスのこと」

前回はお休みさせていただきました。

しかも今回はいつもとちょっと違う内容になります。

 多くの人が大絶賛しているデヴィッド・バーン/スパイク・リーの「アメリカン・ユートピア」。観ました。

 確かにショーとしては完璧です。しかし観ていて最後までどうしても入り込めませんでした。

 細かい動きまで完璧に演出されていて、笑顔さえもその演出の一部かと思ってしまう完璧なショーにライヴ感を全く感じなかったからかもしれません。ライヴでの高揚感は全く感じませんでした。

まあ、それは単なる個人の感想だから別にいいんです。

一番戸惑ったのはこのシーン。

この曲がジャネール・モネイのカバーだとは後で知りました。デヴィッド・バーンのみならずカバーしている人結構いますね。

 ジャネール・モネイ本人のライヴ映像がこれ。

そしてこの曲についてのデヴィッド・バーンのインタビュー。

https://realsound.jp/movie/2021/05/post-764836_2.html

 レイシズムによる犠牲者の名前を呼び上げるこの曲、「アメリカン・ユートピア」ではとても感傷的なところで留まっているように思えたんです。

 上記のインタビュー記事では「スパイクらしいストレートな怒りを感じさせる」とありますが「え?どこが?」と思ってしまいました。単なる個人の印象かもしれませんが「Hell You Talmbout」の他の誰の演奏を観ても「アメリカン・ユートピア」よりもストレートな怒りを感じます。

 でもそれはいいんです。デヴィッド・バーンという人の音楽ですから。

 それを撮った監督のスパイク・リーに対して不満を感じたんです。

 「ブラック・クランズマン」での最後の最後のシーン(KKKの覆面の隙間からアダム・ドライバーの顔がわかる)でレイシズムの強烈さと根深さと怖さを一瞬で提示し、またあくまで「白人目線での黒人差別救済」映画であったとして「グリーンブック」に怒りを示したスパイク・リーが、なんら差別へのアクションを示さず犠牲者の追悼という感傷的なところに留まっている映像を撮ったことへの疑問でした。

 「アメリカン・ユートピア」にも「VOTE!」というアクションを促すメッセージは出ますが、それでも主張を声高にいうのではなくソフィスティケートさせて提出するデヴィッド・バーンを、複雑な状況から逃げることもなく巧みにパワフルに主張し続けてきたスパイク・リーが撮ったのがこれ?という残念感が大きかったんです。

 比較するのは違うと思いますが、ここで思い出したのがThe ChicksのこのMV。

 とても濃厚な映像です。

 映像同様、音もとても濃厚です。

 この曲は、移民国家であるアメリカのゴッタ煮の文化が、「カントリー」というアメリカ保守層を支えている文化により簒奪されていった歴史を意識して作られた、という分析を安東崇史氏がツイッターで書いておられます。その分析がとても面白いのでリンクを。

https://mobile.twitter.com/adtkfm/status/1276434787499077635

 ザ・チックスはディクシー・チックスという名前から「ディクシー」が差別を連想させるということで改名しました。

全世界で3000万枚以上のセールスを誇るモンスター・グループですが、2003年にジョージ・ブッシュ大統領が湾岸戦争を始めたことに対し「アメリカの大統領が(同郷の)テキサス出身ということが恥ずかしい」と反対意見を表明しました。

 その発言がアメリカの保守層の反感を呼び、全米のラジオ局でのディクシー・チックスの曲の放送禁止、ルイジアナでは怒ったリスナーが15tのトラクターでCDやグッズを破壊という猛烈なバッシングにあいました。

 しかしその後も意見を変えることなく活動を続け2007年に第49回グラミーを獲得しています。

 「March March」の映像に話を戻します。

比較するものじゃないと言いながらもつい「アメリカン・ユートピア」の「Hell You Talmbout」と比べてしまいました。

 「March March」では「March march to my own drum」の歌詞で始まり、後半「アメリカン・ユートピア」同様犠牲者の名前が出てきます。

しかしその前には「#end white silence」のハッシュタグ、犠牲者の名前に重なりマーチング・ドラムでのデモ映像、デモでのダンス映像が挿入されます。レイシズムに対する表現の力をどちらがより表しているか、はっきりわかると思います。

 カントリーも今は保守と革新の両極に分かれているようですが、それでも「March March」のようなPVがアメリカ白人保守層の文化を支えているカントリー・ミュージックの分野から出てきたことはとても面白いと思います。

 このMVがBLMの大きな流れの中から出てきたのは間違い無いですが、それだけじゃなくLGBTQの問題にも触れています。

 カントリーにおけるLGBTQの歴史を前述した安東崇史氏がツイートしています。

 これもとても面白いので是非。

https://mobile.twitter.com/adtkfm/status/1276690180229885952

 その中でも言及されているLGBTQ当事者が初めて警官に真っ向から立ち向かった69年の事件「ストーンウォールの反乱」ですが、wikiによると暴動の原因としてLGBTQアイコンであるジュディ・ガーランドの死が当事者の団結心と反抗心を高めた、という説があるそうです。

 その真偽はともかく、LGBTQ当事者でもあるルーファス・ウェインライトのジュデイ・ガーランドに捧げた(衣装もジュディに扮したもの)ライヴ映像を最後にどうぞ。

 今回は特殊音楽と言いながらデヴィッド・バーンとカントリーと、全く特殊ではありませんでしたがいかがでしたか?

 異論反論はもちろんたくさんあると思いますがSNSでもいいですから教えていただけると嬉しいです。

F.M.N.石橋

 :レーベル、企画を行うF.M.N. Sound Factory主宰。個人として78年頃より企画を始める。82~88年まで京大西部講堂に居住。KBS京都の「大友良英jamjamラジオ」に特殊音楽紹介家として準レギュラーで出演中。ラジオ同様ここでもちょっと変わった面白い音楽を紹介していきます。