第52回『ローリング・ストーン』の時代 ; サブカルチャー帝国をつくった男 ジョー・ヘイガン (著), 中島由華 (翻訳)

『ローリング・ストーン』の時代 ; サブカルチャー帝国をつくった男 ジョー・ヘイガン (著), 中島由華 (翻訳)
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雑誌「ローリング・ストーン」がどうやって誕生したかというか、「ローリング・ストーン」にまつわる奇妙な人間関係を描いた「ローリング・ストーン風雲録-アメリカ最高のロック・マガジンと若者文化の軌跡」の改訂版かなと思って手に取った「『ローリング・ストーン』の時代 サブカルチャー帝国を作った男」は上記した本とまったく違っていました。

この本は「ローリング・ストーン」を作ったヤン・ウェナーの伝記でした。ヤン・ウェナーでこんな分厚い本を作れるのかと心配したのですが、「ローリング・ストーン風雲録」を超える面白さだったです。この本一冊あればアメリカの60年代から今までの歴史がどのようなものだったのか分からせてくれます。カウンター・カルチャーが生まれ、それがローリング・ストーンに寄稿していたトム・ウルフが命名した“ミー・ディケイド(自己中の時代)”になり、今どういう時代なのか分からせてくれます。日本でいうと学生運動の時代がしらけ世代となってオタク文化となった流れです。

この本を読んで僕が何を思っていたかというと、ミー・ディケイドが拝金主義になって、今のロシアとウクライナの戦争を生んだなということです。ヒッピーが自由と平等を叫んでいたのを、「いや自由のためにはすこしくらい平等は我慢してもいいんじゃない」という考えがプーチンを強硬なものにしたのです。

お金が儲かるならすこしくらい独裁でもいいんじゃないという考えです。そうやって見過ごしてきたものが今ウクライナの人たちを苦しめているのです。

中国もそうです。共産党を批判しなければ、お金儲けしてもいいよという甘い汁にたくさんの人が共産党の独裁を許し、天安門で何があったか、なぜ天安門にたくさんの若者を集まったのかを忘れようとしているのです。あの時2ヶ月近く天安門を占拠した若者たちが求めたのは中国の民主化です。

戦前の日本も市場が欲しくって満州という国を作りました。そして今のロシアのように経済制裁をされ、第二次世界大戦となりました。あの時「分かりました」と満州を諦めていたら、日本人は300万人も殺されることはなかったのです。経済をとったために300万人もの人が亡くなったのです。政府の満州がなくなると日本の市場経済は終わるという間違った情報に踊らされ、日本人は戦うことを決意したのです。敗戦して満州、朝鮮を失った日本がどうなったかというと、アメリカに次ぐ第二位の経済大国になったのです。中国や朝鮮を植民地にしなくっても日本は豊かになれたのです。日本人は軍部や政府の嘘の情報に騙されていたのです。

たぶん僕たちはずうっとデマの世界に生きているのでしょう。それを生んでいたのが『ローリング・ストーン』などに代表されるメディアなのです。

もちろん『ローリング・ストーン』は誠実になろうとしていました。「ローリング・ストーン風雲録-アメリカ最高のロック・マガジンと若者文化の軌跡」はまさにその歴史です。それは読んでいて憧れます。今ウクライナで戦っている人や、天安門で戦った人たちに憧れるのと同じです。で、そんな本の結末が衝撃すぎて笑ってしまったのですが、『ローリング・ストーン』を作ったヤン・ウェナーが最後は若い男を彼氏に選んでゲイとして生きるというオチだったのです。「エーーーーーーーーーーー」ていうくらいびっくらこきました。渋谷陽一が突然「俺、男好きやってん」というくらい衝撃でした。「ローリング・ストーン」といえばすごいアメリカン・マッチョな雑誌だったと思っていたのに。そういう所が僕は嫌いだったんです。やっぱりNMEとかFACEなどのイギリスの雑誌はゲイとかフェミニンな匂いが10%はしてたんですけど、「ローリング・ストーン」はトム・ウルフと並ぶ「ローリング・ストーン」が生んだ偉大なるジャーナリスト、作家のハンター・S・トンプソンの葉巻の匂いがプンプンしていたと思うのです。

全部嘘やったんとずっこけるわけですけど、でもすごく戦ってきた雑誌だというのはよく分かります。僕はこれを読みながらネット時代をどうやって戦っていこうと思うわけです。ネット時代にトム・ウルフやハンター・S・トンプソンのようなことが出来るのか、彼らの生活を支えていたような「ローリング・ストーン」はもうない、自分で取材費を集めるのは出来る時代になってます。誰もがトム・ウルフやハンター・S・トンプソンになれる時代が来てるのに、そんな面白そうな人が出てきてる気配はいっこうにありません。

この本の著者は「ローリング・ストーン」に憧れていて、一つ一つの章が「ローリング・ストーン」の特集を読んでいるように書かれていました。文章もすごくいいです。ヤン・ウェナーから僕の伝記を書いてみないかと声をかけたそうです。ヤン・ウェナーはやっぱりすごい編集者だなということをあらためて思いました。