カレー屋店主の辛い呟き Vol.55 「最近オススメの漫画とか」
- 2022.07.08
- OSAKA
先日、大阪城野音で行われた「ToMoNi」(https://www.tomoni622.com/ )とゆーイベントに、ケータリングとして参加させてもらいました。久しぶりの野音のバックヤード。昔、あんなイベントも、こんなイベントもあったなーと、感傷に浸りながら、カレー屋としてスタッフさんや、演者さんに、カレーを振る舞う感じが新鮮やったっス。このイベントは、「私を巡らせる演劇✖︎ライブの非戦芸術祭」と銘打ち行われた無料イベント。「思想つよ」なんてコトも勿論思ったけど、「国家」でなく「ひと」に寄り添う為のイベントって話を聞いて、そんな感じならカレーぐらい作りまっせと、参加した次第。
僕も、昨今のしたり顔で「国家」的観点から語る奴が、あんま好きじゃないもんで。「ロシアわるー、ウクライナかわいそ」ってそんなコトは当たり前。どっち勝つ、どっち有利って話は、あまりに想像力が無さすぎて、ゲロ吐きそ。そこには「人」が居てるんやけどな。戦術、戦法、勝利の行方を語るのは、スポーツだけでえーよ。で、こんなイベント何の意味あんねんって話も、よく聞くワケ。主催者の皆さんの考えは知らんけど、個人的には、イベントにそもそも何で意味いるねんとも思うしさ。
結果、渋さ知らズのステージはオモロかったし、ギタリストの三原さんはエグかったし、鳩は飛んでるし、DIY溢れるステージと、バックヤードの様々なハプニングも笑けたし。学者の先生の言うことは、大いに頷けるコトも、そりゃちゃうやろて思うコトもあったけど。参加するだけで、いろんな感情が湧いて、いろんなモノに出会えるこんな機会。どんどんやりゃえーと思うし、オモロそーなモノはどんどん行こーと思いましたぜ。
さてさて。皆様こんにちは。大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。今月もこのコラムを読んでいただき、ありがとうございます。いかがお過ごしでしょか? 今回、あまり書くことが思いつかないので、ここ半年ぐらいで買った個人的なオススメ漫画でも紹介しようかと。相変わらず、週一でネットカフェに通い最新の連載を追いかけ、コミックを買って売ってを繰り返しながらも、無限に増え続けている僕のマンガ事情。そんな中でも、衝撃や、安らぎや、涙を与えてくれたマンガ達を数冊紹介していきますね。
■「ひらやすみ」 真造圭伍
ビックコミックスピリッツの連載スタート時から、一瞬で「真造圭伍」の描く世界に引き込まれて、大好きになったこの作品。舞台は、主人公「ヒロト」が近所のおばあちゃんから譲り受けた平屋と、その平屋が建つ東京・阿佐ヶ谷の街。そこに大学進学で上京した18歳のいとこ「なっちゃん」が、引っ越して始まる新たな生活。そんな2人の周りに、生き辛さを抱える面々が集まりだしってな日常を描く群像劇。
とにかく、生活の匂いまで感じれそーな、阿佐ヶ谷の町並みが登場する舞台描写が良くて、そこに描かれる、平凡やけど、かけがえのない日常。温かい街の情景。油断してぼんやり読んでると、泣かされしまうエピソード。とにかくいいやつの主人公ヒロトと、偏屈なおばあちゃんとのやりとりなんてえーのよ。
んで、平屋に集まる登場人物たちが、夢や、お金や、自由とかの間で、葛藤しながら生きてる様子が、とにかく作者のやさしい視点と、温かみのある画で描かれていくんス。
どこにでもあるようなお話で、誰にでも一度は訪れるモラトリアム期。役者を辞め、ノンキに都会でフリーター生活を続ける主人公のヒロト。現実社会では、実はこんな生活を続けるコトこそが難しくて、夢を追いかけることよりきっと大変。のほほんとしたヒロトは、何も考えていないようで、困難を受け入れていく「覚悟」があるよーに感じる。その覚悟を持った主人公の存在が、他の登場人物、そして読者である私達の良きメンターに、なってるねんな。これが、単なる日常系マンガとは、一線を画す作品に仕上がる理由。
人生は、そんな劇的なコトは起こらない。日常を楽しむコトの難しさと、奥深さを感じてる方に読んで欲しい一冊っス。
■「奈良へ」大山海
この作品、ほんとに読み手を選ぶ作品かと思うけど、僕は衝撃的に刺ったなぁ。物語は、作者の分身というべき漫画家の話から始まり、パンクスや、ヤンキー、奈良の平和のために立ち上がるサラリーマンなどのシュールな話が続くんやけど、突如始まる、ファンタジー冒険モノの作中作。そして、その冒険物語の世界が徐々に歪みを見せていって、全ての話がリンクしてくる。あーなんかよー分からん文章っスね。
この作品の魅力を伝えたいんやけど、読んでもらわなよー分からん、このパラドックス。てか、読んでも何コレって人も沢山いると思うけど。僕は、この作品を読んで、なぜか不条理なこの世界の事を、少し考えましたよ。まぁ知らんけど。別に哲学的な、漫画やないねんけど。んで、全編を通して感じられる、今の閉塞感と、そこに対するカウンター。これ、つげ義春さんやし、中島らもさんやし。
そして、人間のそんな閉塞感や、苛立ち。そんなコトを包み込んで、支えてくれてるのが、この話であれば舞台となる、奈良の土地や歴史。もしかしたら、奈良や、関西に住む人やないと、このあたりの感覚は分からんとは思うけど。特に奈良ドリームランドのくだりとかなぁ。
ちなみに、この作品。作家・ミュージシャンである「町田康」さんが、解説もしてるんやけど、実は、僕はそんな彼の作品は通って来てないんスね。でも彼の「この作品を読んで、まず思ったのは途轍もない傑作だとゆうことで、私は読後、暫くの間、虚脱していた。」って発言には完全同意。どう勧めていいか分からんけど、個人的にこの上半期一番刺さった一冊ってコトは、間違いないんス。
■「近所の最果て」澤江ポンプ
このマンガの作者「澤江ポンプ」と出会うきっかけになったのは「パンダ探偵社」という作品。変身病という、人間から動植物になってまう、不治の病が存在する世界線。この病気になり、パンダに変身を遂げつつある主人公が、探偵業を営む先輩と一緒に働きながら、そこで出会う変身病患者たちとの関わりを描いた話なんやけど。この作品が、ホントに秀逸で。どえらい才能を持つ作家さんやと一目惚れ。
身体が徐々に動植物に変化していく中で、やがて人格が失われる不治の病である“変身病”。その過程の中で「ヒト」でなくなっていく変身病者たちの覚悟と選択、そして残された者に宿る勇気と希望。矛盾だらけの「ヒト」とは何かってコトを、ユーモアかつ、クールなストーリーと、登場人物の心を映す豊かな画で表現してる。ホンマ恐るべき才能。これスゴイ作品になりそーやなと、思っていた矢先の休載。かつ、作者の大腸癌4ステージの発表。そして、そんな期間に発売されたのが、ここで紹介する、デビューから約10年間の作品をまとめた短編集。
僕は、今年になってからこの短編集の存在を知って、読んでみたけどやっぱこの人スゴイ。Twitterとかでバズった漫画が、この人の作品やったのかとか発見もあったし。希代のユーモアのセンス、設定のオモロさは相変わらず。作者自身の作品解説と併せて読むと、更に楽しめるし、「パンダ探偵社」の構想とも繋がっていくよーな作品もあったり。闘病中の彼の回復と、作家活動再開を待ち詫びながら、この短編集を何度も読むんやろーな。
■ピノ:PINO 村上たかし
ゆー、言わば何度も使い古されたテーマの話なんスけど、村上氏の豊かで温かい表現力、「ナマケモノ〜」の頃から変わらない、デフォルメされてるけど、緻密で、繊細な画で見せられると、作者の術中にハマり、涙腺崩壊しての号泣。この画。このストーリー。おばあーちゃんと、子供AIロボの組み合わせって凶悪すぎますテ。
なんかの書評でも言ってたけど、「ブレードランナーを、山田洋次が撮ってたら、こんな作品になるんやないか?」ってのが、ほんとに言い得て妙で、腑に落ちるわ。美しくて、泣ける日本産のAIストーリー。この作品を含め、村上先生の作品は、外国語訳して、海外発売するべきやと思いますぜ。てか、これアニメ化あるやろなぁ。
で、もう一つ言いたいことは、この本の印刷と、表紙含めた紙質の素晴らしさ。もはやマンガはスマホでって人も多いと思うけど、この手触りと、印刷の味わい深さはWEBでは無理。僕が、紙で漫画を揃えたくなる理由が、あらためて実感できたました。「星守る犬」と、この「ピノ:PINO」は、ぜひ一家に一冊。いつまでも、どんな世代でも読める作品やと思いますぜ。
さてさて、発売時期はバラバラですが、この半年ぐらいで購入したマンガの中から、個人的オススメを紹介してみました。まだまだ、紹介したい作品もあるけど、今回はこのあたりで。気になる方は、うちの店にこのマンガ達を置いておくので是非!ミナサマのオススメのマンガがあれば、聞いてみたいっス。
それでは、また来月。
ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00