第59回キング・クリムゾン全史 混沌と錬修の五十年 (ele-king books) シド・スミス(著)大久保徹(監修)島田陽子(翻訳)
- 2022.11.05
- COLUMN FROM VISITOR
毎日一生懸命ギターの練習をしている久保憲司です。
ギターはやっとトークが出来るようになったぐらいで、まだ歌えるまでいっておりません。
世の中には1万時間の法則というのがあるそうで、なんでも一万時間頑張れば一流になれるという説です。10年間毎日3時間練習すれば一流になれるという法則です。
プロになるような人は、毎日8時間の楽器の練習を3年とか5年とかやって、なった人が多いと思うので、あながち間違った法則ではないのかなと。
僕の場合は1日1時間くらいしかやっていないので、あと10年間くらいやればプロになれるのかなと思っています。
70歳になっているんですが、どんな音楽やったらいいんですかね。レナード・コーエンみたいな感じですかね。
70歳デビューって、どう考えても「孫」を大ヒットさせた大泉逸郎さんしか思い浮かばないです。大泉さんはサクランボ農家をやりながら、自宅にスタジオを作って自主制作で「孫」をヒットさせたすごい人です。日本のインディの鏡です。
世の中便利になりまして、今はYouTubeでギターの練習が出来てしまいます。しかも普通に音楽を遅くする機能もついていて、ピッチも変わらないという、すごい時代です。音がごちゃごちゃして何をやっているのか分からない時はアプリでギターの音だけとか取り出せたりします。それでも分からない時は、いろんな人が演奏解説してくれています。
デジタル最高!
もっと凄いのは作った本人から「YouTubeで色々と僕のギターの解説をやってくれているけど、間違っているよ、こうだよ」と紐解いてくれる人もいます。
キング・クリムゾンのロバート・フリップ先生が「僕の録音の仕方が悪かったせいで、聞き取れなかったかもしれないけど」と謙虚に言いながら、僕が世界一ハードなギターと思っている「太陽と戦慄パート2」を解説してくれています。
ロバート・フリップは、奥さんのトーヤ・ウィルコックスと“サンデー・セッション”という日曜日に色んな曲を楽しく演奏している動画を上げてくれていますが、フリップ先生は“ロバート・アット・ホーム”という家でフリップ先生が毎日どういう練習しているかという動画も楽しみにしています。“サンデー・セッション”は元々はコロナ禍でも働いている人たちの勇気を讃えるために始めたものですが、今は本人たちが楽しんでおられます。月曜日から土曜日は真面目に仕事して、日曜日は遊ぼうというフリップ先生らしいなと思います。
正直な感想、僕は今はフリップ先生よりもジミー・ペイジのように弾きたいと思っているので、リズムにむちゃくちゃ正確なフリップ先生の練習方法は自分にとってはただの憧れで終わっているので、フリップ先生のメトロノームに合わせて弾く練習は眺めているだけです。
ジミー・ペイジがリズムにいい加減というわけではありませんよ。自分はジミー・ペイジのようにファンキーに弾きたいと思っているのです。
フリップ先生はジミー・ペイジのようなみんなでノリノリだぜ、みたいな60年代グルーヴが大嫌いというか、そこには未来はないだろうと思った人でした。その答えが「太陽と戦慄パート2」であり、エイドリアン・ブリューやトニー・レビン、ビル・ブルーフォードと始めた新生キング・クリムゾンであり、今も続くキング・クリムゾンだと思います。
黒人ではない、白人のファンキーなビートを探すことがフリップ先生の目標でした。
傑作『クリムゾン・キングの宮殿』を作ったけど、それを維持するためにボズ・バレルなど後に一流となる人たちとやったけど、フリップ先生はボズなどの60年代的ジャムが我慢ならなかったんだと思います。
フリップ先生がやりたいのはジャムでもなく、インプロヴィゼーションでもなく、ディシプリンがやりたいわけです。オーケストラの規律ある演奏のなかから生まれる高尚なグルーヴ、メロディ、それらが一つになった時、神に召されるような感じ、それを目指しているんだと思います。
これが他のミュージシャンとうまくいかない理由なのだと思います。他のミュージシャンは毎日の演奏を生活の糧としています。だからツアー中はドラッグやったり、女性にうつつをぬかしたりするわけです。生活ですから、修行のためにツアーに出ているのではないので、お金を稼ぎ、たまには息抜きでドラッグや女性、男性に手を出したりするわけです。
イエスを辞めて、クリムゾンに入ったビル・ブルーフォードなどはまさに、フリップ先生の下で勉強したいと入ったりするわけですが、いつまでもそんな苦行は出来ないと最後には辞めていくわけです。こんな苦行を永遠と苦にしないトニー・レヴィンという強者もいますが。
フリップ先生もそんな厳格な人ではないので、たまに演奏が雑になっても怒ったりはせず、ツアー中に何回か、一回でもいい、神に召されるような高尚な気持ちに到達したいと思ってやられているわけですが、みなさん辛いのでしょうね。基本みんなお金を稼ぐために生きてますからね。
この気持ちがなかなかうまく合わないわけです。そんな歴史を書いてくださっているのが、『キング・クリムゾン全史』です。フリップ先生と他の人がうまく噛み合ってない記録です。本当に歯痒いです。フリップ先生の言っていることはすごく正しいのですけどね。なかなか難しいです。
この本はいろんなクリムゾン関係者から話を聴いていますが、僕的にはやっぱりフリップ先生から見た視点だけのクリムゾン史というか、フリップ先生の話をみっちり聞きたいです。今はプロデューサーのデヴィッド・シングルトンとそういうことを話すツアーもされています。たぶん部屋で二人きりで篭って音楽理論(キング・クリムゾン)の話をするより、ファンと会話しながら、自分の音楽理論を解説する方がおもしろい“フリップ先生の音楽(キング・クリムゾン)論”のような本が出来るかもと思っているのかもしれません。
僕的にはフリップ先生が、音楽業界から引退してグルジェフ研究家の第一人者ジョン・ G.ベネットの元で学んだ4年間のことや、デヴィッド・ボウイがお祓いを頼んだこともある魔女ウォリ・エルムラークのことや、彼が体験した神秘的なことなどに特化した話を聞きたいなと思っています。
僕もついにビートルズがハマった超越瞑想をやろうかなと思っています。その次はグルジェフかなとも思っています。あっ、それよりもまずはギターで歌えるようになることですね。