カレー屋店主の辛い呟き Vol.72 「Z世代のオルタナティブ」

皆様こんにちは! 大阪・上本町のカレー屋兼飲み屋店主の「ふぁーにあ」と申します。

今月もこのコラムを、読んでいただきありがとうございます。

個人的な話なんスけど。今月は3年連続になる沖縄プロ野球キャンプツアー(という旅行)に行ってきました。阪神を中心に、ヤクルト、中日、DENA、日ハム。いろんなキャンプ地で、野球ファンと交流して、濃いー野球談義を楽しみつつ、2年前のこの企画の時に仲良くなった沖縄の友人、後輩達とクルージングをする普天間、金武、コザという基地の街。地元の人間じゃないとわからない、ガイドブックにない沖縄。旅先で作った、新しい友人達に感謝っス。旅は1人旅に限るし、友人は旅先で作ることがオススメかも。友人の輪が毎年大きくなるし、日本中、世界中にホームの街が増えるしな。

さて本題。今回はいつか書こうと思っていた、若いバンドのお話。ここ4,5年。いや特にコロナ以降の1,2年で、オモロいZ世代のバンドが増えてきたんスよ。新譜中心のレコード屋さんに行っても、この辺りのバンドをレコメンドしてる様子はよく見るし。10年ぐらい前にEDMが大流行した時に、生音、バンド回帰の流れは予想できたのだけど、遂に芽が出始めたよーな気がしてます。

また、「バンド」って手法を、今の時代に取っているトコもオモロいなと。(こんな事、言う時代が来るとはね…)元ライブハウス経営者の立場から言うと、バンドってとりあえず同じ方向性をもったメンバーが集まらないとできないし。いいバンドが同じ街に同時多発的に生まれて、コミュニティを作っていかないとシーンは面白くなっていかないンスよね。そうならないと、面白いブッキングは生まれないしな。

若い面白いバンドがどんどん出現してる、そんな街が世界中に増えてきているよーな気がします。

例えば、JAZZのグルーヴを持った「Tom Misch」以降のサウス・ロンドンのJAZZシーンがそうだし、同じサウスロンドンのシーンから生まれた「Goat Girl」以降のパンク〜ポストパンクのシーンもそう。アメリカだと、「SnailMail」を生み出したボルチモア産のバンドが最近ホンマに熱いし。世代も違うし、ジャンルも違うとは思うけど、「Horse Lords」や、「Turnstile」とかも同郷やんね。多分、バンドが育ついいコミュニティがあるんやないかと思うわけです。

Snail Mail – “Heat Wave” (Official Video)

Horse Lords – Mess Mend [Official Video]

TURNSTILE – BLACKOUT [OFFICIAL VIDEO]

そして今回紹介したいのが、シカゴ出身の女の子の3ピースのバンド「Horsegirl」。シカゴのDIYコミュニティから生まれた彼女達は2020年のシングル“Billy”で、またたく間にロックファンの心を鷲掴みにして、マタドールからリリースしたデビューアルバム「Versions Of Modern Performance」はこの1年何度も聴いた僕もお気に入りのアルバムに。ここからは、そんな彼女達のことを掘り下げてみましょかね。

◼️「Horsegirl」って何者?

Horsegirl – “Anti-glory” (Official Music Video)

彼女達ホースガールのデビューアルバムについて、アメリカの音楽メディアのピッチフォークはレビューでこう書いているんス。「『Versions Of Modern Performance』は、1997年、あるいは1987年に発表されたとしてもおかしくない、というのは褒め言葉だ。なぜならまったくその通りなのだから」と。

これが彼女達を一番表している言葉やと思うんやけど。そもそも彼女達は、お気に入りのマタドール・レコーズのアーティストの話で意気投合して、ノーウェーブやシューゲイザーを再発見したいと結成したバンド。「今はもう存在しないバンドやシーンがあって、それに私たちは夢中なんです。自分たちが経験できなかったことを自分たちも経験したいと思っています」と彼女達が語っているよーに。今年のフジロックにも出演が決まった、レジェンドのキム・ゴードンを究極のロックアイコンとして掲げ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスロウダイヴ、ソニック・ユースやニルヴァーナに憧れ、ベル・アンド・セバスチャンに共感する、オルタナティブシーンの完全なる2世世代。そりゃこんな音になりますわな。

Horsegirl – “World of Pots and Pans” (Official Lyric Video)

デビューアルバム収録曲の“World Of Pots And Pans”の歌詞では、キュアーやジーザス&メリーチェイン、ギャング・オブ・フォー、ベル・アンド・セバスチャンの歌詞や曲のタイトルが引用されていて、この時代からの影響を隠そうともしていないし、インタールード的”Bog Bog 1″って曲はマイブラそのまま。

Horsegirl – “Bog Bog 1” (Official Audio)

そもそもデビュー作で、彼女たちと共同プロデュースを担当したのは、ソニック・ユースやダイナソーJr.、などの作品を手がけてきたジョン・アグネロで、レコーディングが行われたのは、あのスティーヴ・アルビニのスタジオ。もう一度言うけど、そりゃこんな音になりますわなって話。

また、彼女達は自分たちを生み出し、送り出したシカゴのシーンをプレゼンすることにも積極的で、Youtubeに上がってるドキュメンタリー動画「Do You Want Horsegirl or Do You Want the Truth?」では、ホースガールのほかに、地元のシーンのライフガード、フリコ、ポスト・オフィス・ウィンターらのライブ動画を観ることができる。これは地元のシーンをDIYでフックアップして、バンド同士の活動を相互支援する、80年〜のインディロックのシーンを思い出させるわけ。彼女達は勿論、他のバンドも可能性を感じさせる、いいバンドばっかりやし。

“Do You Want Horsegirl or Do You Want the Truth?” (Video Document)

これは、さまざまな非営利のアートプログラムのネットワークを通じて、メンバー同士が知りあった経緯があるらしく、「Hallogallo」というアート集団がバックボーンになって、若いアーティスト同士が繋がるコミュニティーを作って行った結果らしい。こういうコミュニティーを作って行くことは本当に大事で、街やシーンがオモロくなっていく過程では必ず起こる現象。店を構えてる僕も、常に考えておかなあかん事やと思うな。もっと自分のいる街がオモロなるよーに。

◼️ Z世代のオルタナティブ

ここまでホースガールの事について書いてきたけど。彼女達のよーな音楽性や、キャラクターを持ったバンド達は、彼女たちの世代や近年の音楽シーンにおいて目立ってきたような気がします、例えば、もうある程度の知名度を得たバンドでゆーと、ロンドンのゴート・ガールやウェット・レッグ。アイルランドのジャスト・マスタードや、リンダ・リンダズとかもか。

Goat Girl – ride around (Official Video)

Wet Leg – Chaise Longue (Official Video)

Just Mustard – Still (Official Video)

The Linda Lindas – “Growing Up”

バンドサウンドの復権とか、振り戻しとか。恐れなくなったGIRLSの台頭とか。いくらでも理由をつけて、一括りにして文章を纏めることはできるんだろーけど、おっさんの戯言にすぎないわな。でも、こういったバンド達が力をつけて、シーンとしてうねりをあげ始めてるのも事実やし、そういう未来も予見できる。

ホースガールのメンバーがインタビューで言っていたけど、「年配の人たちが私たちの音楽を自分たちのためにと思ってくれるなら、それは素晴らしいこと。だけど、あまり心地よく感じてもらいたくないんです」ってのが彼女達の本音かも。今は、80年〜90年のインディロックやオルタナティブのシーンの模倣のように感じる大人も多いとは思うけど、そのシーンやバンドがどーゆう風になっていくのか、楽しみにしながら、おっさんは彼女達の音源をこっそり聴くことにしましょか。何目線かわからんけど…

それでは今回はこの辺りで。

ホイミカレーとアイカナバル / 店主ふぁにあ
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ホイミカレー:毎週火木金12:00-売り切れ次第終了 アイカナバル:月—土18:00-23:00